もう10年以上前のこと。会社から家に帰りついた時、止めていた車の上に見知らぬネコがくつろいで寝そべっていた。
「おまえはだあれ?」
あたまをなでるとゴロニャンと甘えてきた。
「おーい、へんな猫がいるよ」と妻を呼び、
「いやに馴れ馴れしいんだ。どこの猫だろう?」と私。
「アメショーかしら。それにしゃあ模様が薄い気がする」と妻。
「もう成猫だよね。何歳くらいかなー」
妻が体を触ると、目を細め、ゴロリとおなかを見せて、『ここ、なでていいよ』と言いたげな表情。
「あらあら、かわいー子ね! 4、5歳といった感じかしら」
妻の目はすでに催眠術にかかったみたいにトローンとしていた。
私はすかさず「飼っちゃダメだよ。たぶんどこかの飼い猫だろうから」
「そうよねー」
翌日、会社から戻ると案の定、妻はそのアメショーまがいの猫を家に入れて餌をやっていた。
「だって玄関の前で『入れて、入れて』って可愛らしい声で鳴くんだもの」
「飼い主が見つかるまで」と約束をして、暫定的に「にゃんこ」と呼ぶことにした。
あれから約10年、飼い主は見つからず、「にゃんこ」という名前はそのまま固定したままだ。