・・・最初の懸賞の賞品は日曜日に届いた。紀州産の高級梅干しだった。
その日がすべての始まりだった。梅干に続いて月曜日にはスポーツタオルとインスタントコーヒーセットが届いた。火曜日は映画の試写会招待券と九州の醤油、水曜日はキャラクターのぬいぐるみ。木曜日はお休みで、金曜日には全国老舗ラーメンセット1年分が届いた。すべて身に覚えのない当選賞品だった。
「あなた、また当たったわよ!今度はマウンテンバイク。そして私には3連のネックレス!」妻からの電話で俺は慌てて仕事先から直帰した。・・・
①
20年ほど前の話しです。
いいこと尽くめのあとには、ゾッとするような恐いことが待ち構えているものです。
保土ヶ谷バイパスを抜け、横浜駅あたりから首都高速に入り、さらに湾岸線に乗り換えてお台場の東京ビッグサイトをめざす。
明日から始まる展示会の、今日は仕込み作業2日目。
8時前には施工業者は到着していて、今頃トラックで待機しているはずだ。
建て込みスタートが9時だから、スポンサーもその頃には入るだろう。広告代理店のイベントディレクターとして、俺は作業開始時間に遅れる訳にはいかなかった。
車が羽田出口を通り過ぎ、湾岸線方面と書かれた標識が見えてきて、ようやく余裕を取り戻すことができた。
なんとか9時前には到着できそうだ。
分岐点でハンドルを左に切る。大きく右にカーブする緩やかな坂を下ると、湾岸線と合流する。海に向かって視界が広がり、ゴールデンウィーク直前のよく澄んだ青空が視界に広がった。タバコに火を付け、絞っていたラジオのボリュームを上げる。
不意に自分の名前を呼ぶアナウンサーの声が耳に跳び込んできた。
「・・・相模原市にお住いのツムラエイジさん。おめでとうございます。さっそく賞品をお送りいたします」
"だれ、ツムラエイジって? オレのこと? 相模原に住んでいるツムラエイジって、やっぱり俺だよな!
なにか当たったんだ。本当かな。聞きそこなっちゃったなあ。でもうれしいな"
料金所を通り過ぎ、海底トンネルが見えてきた。渋滞もなく、この分だと8時半には着けそうだ。
"待てよ、いつラジオの懸賞に応募したんだっけ?
小学校以来、一度もそんなことやってない。じゃあなぜ当たったんだろう。そうか、文美枝か!"
そうに違いないと俺は思った。妻が俺の名前で応募したんだ。
海底トンネルを抜け、首都高速を降りてお台場に着いた。東京ビッグサイト(国際見本市会場)はすぐそこだ。
"でも楽しみだな、なにが当たったんだろう。いかん、仕事モードに切替えなくちゃ"
仕事中はそのことを忘れていた。帰りの車の中で思い出した。
なぜ文美枝は俺の名前で懸賞に応募したのだろう。
それにそもそも、うちは高圧線が近くに通っているため、雑音がひどくてほとんどAMラジオが聴き取れない。車の中は別として、うちではラジオを聴くという習慣はなかった。
同姓同名で、しかも同じ地域に住む赤の他人? それはないだろう。まあ、考えたって、分からないものは解らない。
俺は賞品が届いてからその先を考えることにした。それまで文美枝にも黙っていよう。 《つづく》
[つづき]懸賞はいつも当たり ②