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懸賞はいつも当たり ②

 4日後、懸賞の賞品が宅配便で届いた。
 俺が展示会最終日の現場を終え、打ち上げを済ませて家に着いたのは、12時を少しまわった頃だった。
 居間のダイニングテーブルの上に小振りな宅配便の箱が乗っていた。
 それが「アレ」だとすぐに分かった。送付状を見ると送り主はあの時聴いていたラジオ局。間違いない。
 包を開くのに何となくためらいがあった。着替えてからにしようと思った。
 寝室をのぞくと妻はもう床に就いていた。
 暗いなかで、音をたてないようにそっとパジャマに着替える。
 「お帰りなさい。あなたに小包が届いているわよ!」
 ドキリとして振り返ると、意味あり気な笑みを浮かべ、文美枝がまくら手をして俺を見上げていた。
 「まだ起きていたんだ」
 「ウメボシよ!」
 「梅干か」
 「梅干ったって紀州産の高級品よ。あれはどうしたの?」

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 「なにかの懸賞で当たったみたいだね」
 「ふーん」妻はそのことだけを聞きたかったらしく、おやすみなさい、と云うとくるりと背を向けた。
 居間に戻り、宅配便の箱を指でひっくり返してみた。包の裏の一部がカッターで上手に切り取られ、中身がのぞいていた。子どもじみた真似だ。
 確かに梅干。拍子抜けした。まあ、それで良かったのかもしれない。俺は一体どんな賞品を期待していたのだろう。
 やはり文美枝じゃなかったのかと風呂に浸かりながら考えた。
 だれか知合いのひとりが悪戯で俺の名前を使って応募したのだろうか。それともラジオ局のデータミス。どこからか俺の個人データが応募者リストの中に紛れ込み、運良く(?)懸賞に当選したのか。そうだとしたら、《違法な個人データの流失》を問題にしなければならないが、その気はないし、たかがウメボシだし、眠いし、どうでもいいか。
 風呂を出て、もう寝ようと居間の明かりを消してふと見ると、PCの電源ランプがついているのが見えた。
 また点けっぱなしだ。
 妻はどうした訳かADSL接続をいいことに、今頃になってインターネットに夢中になり、「おたく」と化していた。あちこちの掲示板に書き込んだり、チャットやどこかのBBSにもぐり込んだりして、手広くコミュニケーションを楽しんでいる。
 子供がいないせいかとも思うが、確かめた訳ではない。
 PCの電源を切って自分のベッドにもぐり込む。隣のベッドからキリキリと歯軋りが聞こる。眠れないほどじゃない。結婚生活10年選手だ。こうしたことはお互い様だろう。《つづく》

 

[つづき]懸賞はいつも当たり ③

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