⑨
「いつから気がついていたんだい?」
「ずっと以前。初めて私宛に懸賞の賞品が届いた日よ。覚えているでしょ」
そんなこと、急に云われてもわからない。
「いつだっけ?」
「3連のネックレスが届いた日だから、1ヶ月くらい前かしら」
「ああ・・・、そんなに前なんだ」
おれはちょっと意外な気がした。そして何に対してと云う訳ではないが、いつもだまされ続けてきたような気分になった。
「あのね、コンピュータをいじっているうちに、このソフトの存在に気がついたの。コレってなあに? って」
「なるほど」
「私もあちこちから、フリーのソフトかき集めてきては捨てているから、実際コイツをどこから拾ってきたのか、今じゃ分らないの」
「うんうん。でー?」
「でネ、一応試すじゃない。どんなゲームなのか」
「そりゃそうだわな」
「でもコイツの遊び方が全然分らなかったの。それって頭にくるでしょ」
「そりゃくるわな」
「むちゃくちゃ画面をクリックしているうちに、ジャーン! この隠しログの在り処を見つけたの」
「えらい、えらい」
「パッと見にはなんのことだか分らなかったけど、ジーっと見つめているうちに、私、ついに解明したわ!」
それはあり得る! ソフト自体はモノクロなのに、ログファイルだけ赤黒の2色というのは、まるで"気付いてネ!"と云っているようなものだ。
「よく、気付いたなあ! それからどうした?」
「あなたに電話したの。そのこと知らせようと思って」
「聞いてないぞ!」
「覚えている? 自転車が届いた日?!」
「ああ、MTBだな」
「あの日よ、私宛にネックレスが届いたのも」
「そうだっけ」
「あなた、電話口でこう云ったわ。
『いいか、俺が帰るまでそのままにしておくんだぞ』って。私、思ったの。あなたはついに賞品を返すつもりになったんだって」
「うーん、どうだったかな」
結局、文美枝の熱意に負けて、あの時以来、ずるずると"懸賞生活"を続けてきたのだった。
「そう思って私、あなたに云うのをやめたの」 《つづく》
[つづき]懸賞はいつも当たり ⑩