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(株)ジーツーゲイトは「共感を呼ぶイベント」を提案します

懸賞はいつも当たり ⑪

「gets!」を捨てて、3ヶ月が過ぎた。
 捨てたあともしばらく続いていた、当選賞品の配達も、ようやく止んだ。
 家の中にあふれかえっていた品物は、親兄弟にあげるなり、友人に譲るなり、ネットで売るなり、時には、夜中に遠く離れたゴミ集積所に、こっそり捨てるなりして、ようやく片付いた。
 「サッパリしたわね」
 「ああ、スッキリした」
 「アッサリしたものね。もうここ1週間、賞品は届いてないわ」
 「君がキッチリ始末つけてくれたからな」
 「でも、ガッカリ! 私の好きなゲームも一緒に消えてしまったわ」
 「うむ。チョッピリ可哀相。おー、よしよし」
 「あら、あなた、私ウッカリしてたわ。ご飯の仕度、まだなの」
 「ビックリしたな、モウ!」

  ○

 「でもね、今考えると、ちょっと惜しいことしたと思わない?」
 「なにが?」
 「getsクン、消しちゃったこと」
 「ああ。でもあのままじゃ家に住めなくなってたじゃないか」
 「あの時はパニくってて、ああするのが最善だとおもったけど」
 「あれで良かったのさ。実は俺、今でも薄気味わるくてさ・・・」
 「でもね、もっと賢いやり方、あったって思うのよ」
 「たとえば?」
 「gets捨てずに、あのまま懸賞生活続けてさー」
 「うーん」
 「私たち、当選品、故買屋に安く売っちゃったけど、たとえばよ、貸しコンテナ借りて、とりあえず保管しとけば良かったのよ」
 「それで?!」
 「たまったところで、店やるとかさ」
 「リサイクルショップみたいなもの?」
 「じゃなくて、どちらかと云えば、『ドンキフォーテ』みたいな、なんでも売っているお店」
 「なるほどな」
 「新品で、保証書も付いたコンピュータや、電気製品を、市価の半額ぐらいで売るの。海外旅行のチケットも、8掛けなんてケチなこと云わずに、5掛けでも、3掛けでもジャンジャン売っちゃうの。なにせ元がタダなんだから」
 「なんだかドロボーショップみたいだな」
 文美枝は俺をにらむと、急に脱力したように肩を落とした。
 「あーあ、きっと私たち、あっという間に大金持ちになれたのかもね」
 「・・・」
 「ねえ、そうは思わない?」
 「どうだかな・・・」
 文美枝の目が、急に細くなったかとおもったら、カッと見開かれ、俺はまた"虎の尾"を踏んでしまったのを悟った。
 「あなたが、大して考えもせずに、簡単に捨てようなんて云うからよ!」
 そうだっけ? "どうするつもり? 捨てるの、捨てないの?"と決断を迫ったのは文美枝のほうだ。そのことをすっかり忘れている。「捨てよう」といったのは確かに俺だが、せめて5分と5分というふうに、考えられないのだろうか。
 でも、すべて後の祭りだ。

 それから2日と5時間、口を利いてくれない"お寒い"日が続いた。
 突然の雪解けは、会社の電話に掛ってきた、文美枝からの弾んだ声だった。
 「あなた、大変! また当ったわよ!」
 「へえ、まだ続いていたんだ」
 「そうじゃないのよ。私も最初はそう思ったわ」
 「そうじゃないって、なにが?」
 「"gets2"が出現したのよ!」
 「えっ、どこに?」
 「私のコンピュータに決まっているでしょ!」《つづく》

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gets2

 

[つづき]懸賞はいつも当たり ⑫

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