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「gets!」を捨てて、3ヶ月が過ぎた。
捨てたあともしばらく続いていた、当選賞品の配達も、ようやく止んだ。
家の中にあふれかえっていた品物は、親兄弟にあげるなり、友人に譲るなり、ネットで売るなり、時には、夜中に遠く離れたゴミ集積所に、こっそり捨てるなりして、ようやく片付いた。
「サッパリしたわね」
「ああ、スッキリした」
「アッサリしたものね。もうここ1週間、賞品は届いてないわ」
「君がキッチリ始末つけてくれたからな」
「でも、ガッカリ! 私の好きなゲームも一緒に消えてしまったわ」
「うむ。チョッピリ可哀相。おー、よしよし」
「あら、あなた、私ウッカリしてたわ。ご飯の仕度、まだなの」
「ビックリしたな、モウ!」
○
「でもね、今考えると、ちょっと惜しいことしたと思わない?」
「なにが?」
「getsクン、消しちゃったこと」
「ああ。でもあのままじゃ家に住めなくなってたじゃないか」
「あの時はパニくってて、ああするのが最善だとおもったけど」
「あれで良かったのさ。実は俺、今でも薄気味わるくてさ・・・」
「でもね、もっと賢いやり方、あったって思うのよ」
「たとえば?」
「gets捨てずに、あのまま懸賞生活続けてさー」
「うーん」
「私たち、当選品、故買屋に安く売っちゃったけど、たとえばよ、貸しコンテナ借りて、とりあえず保管しとけば良かったのよ」
「それで?!」
「たまったところで、店やるとかさ」
「リサイクルショップみたいなもの?」
「じゃなくて、どちらかと云えば、『ドンキフォーテ』みたいな、なんでも売っているお店」
「なるほどな」
「新品で、保証書も付いたコンピュータや、電気製品を、市価の半額ぐらいで売るの。海外旅行のチケットも、8掛けなんてケチなこと云わずに、5掛けでも、3掛けでもジャンジャン売っちゃうの。なにせ元がタダなんだから」
「なんだかドロボーショップみたいだな」
文美枝は俺をにらむと、急に脱力したように肩を落とした。
「あーあ、きっと私たち、あっという間に大金持ちになれたのかもね」
「・・・」
「ねえ、そうは思わない?」
「どうだかな・・・」
文美枝の目が、急に細くなったかとおもったら、カッと見開かれ、俺はまた"虎の尾"を踏んでしまったのを悟った。
「あなたが、大して考えもせずに、簡単に捨てようなんて云うからよ!」
そうだっけ? "どうするつもり? 捨てるの、捨てないの?"と決断を迫ったのは文美枝のほうだ。そのことをすっかり忘れている。「捨てよう」といったのは確かに俺だが、せめて5分と5分というふうに、考えられないのだろうか。
でも、すべて後の祭りだ。
それから2日と5時間、口を利いてくれない"お寒い"日が続いた。
突然の雪解けは、会社の電話に掛ってきた、文美枝からの弾んだ声だった。
「あなた、大変! また当ったわよ!」
「へえ、まだ続いていたんだ」
「そうじゃないのよ。私も最初はそう思ったわ」
「そうじゃないって、なにが?」
「"gets2"が出現したのよ!」
「えっ、どこに?」
「私のコンピュータに決まっているでしょ!」《つづく》
[つづき]懸賞はいつも当たり ⑫