■押すんじゃない!ケガしたらどうするんだ!■
非常に混乱したアイドルイベントの現場で、警備と観客の関係が沸点に達し、このままでは危険だと感じた時、私はちょっとこわい顔をして、観客に向かって大きな声でこう叫びます。
ただ、心底怒っている訳じゃありません。どこもピクピクしていませんし、すぐにでも笑顔に戻れます。
怒鳴るとき、自分の中の笑顔の所在(ありか)を確認して、
「うん、大丈夫。そーれー!」とばかりにお腹に力をためて大きな声を発します。
これ、まるで正義を行使しているようで、実は内心、スカッとします。
それまで「押さないでくださ~い」といくら云っても、聞かなかった観客である少年少女たちが、フッと力をゆるめます。
★ここのポイントは、“ケガしたらどうするんだ!”にあります。
腹筋に力を込めて、一気に、大声で “押すんじゃない!ケガしたらどうするんだ!” と叫ぶ訳です。
◇ ◇ ◇
このやり方は、以前、とある百貨店の販売促進課の人から教わりました。
まだデパートが元気な頃、宣伝予算をたっぷり持っていて、毎週のように屋上でイベントをやっていた頃の話です。
アイドルタレントがキャンペーンで来ると、イベントに2000人以上もの観客が、朝から押し寄せました。階段を使って、1階から9階にあたる屋上まで誘導し、少しずつ屋上の地べたに座らせていきます。
相手が若い “動物” だと、なかなかこちらの意図するようには、動いてくれません。至る所で小さなトラブルが発生しました。
イベントスタッフが手分けして整理に当るのですが、なにせ≪1対200≫状態で、ひとつ間違うと怪我人が発生してしまいます。そこで、ここぞという時に、繰り出す言葉が、
☆“押すんじゃない!ケガしたらどうするんだ!”という訳です。☆
◇ ◇ ◇
その後、このセリフを重宝して使ってきたのですが、数年前、まるで神技のような観客整理術を目の当たりにしました。
その人は、一言も余計な事はしゃべらず、常にモナリザのようなアルカイックスマイルを浮かべながら、≪身振り、手振り=ボディランゲージ≫だけで観客を自由自在に誘導していたのです。
その人が1歩踏み出して技を掛けると、相手は30歩移動するといった風でした。
これが、なぜか、有効なんですね。
その人の持つ独特の雰囲気が、どこかに威圧感を秘めていたのかもしれません。
「この秘技」を習得すること。それは私の今後の課題です。